2005年9月 3日 (土)

成功の逆襲

 ある尊敬する創業者から直接に伺って以来、座右の銘にしてきた警句 「自己の得意分野で失敗することが多い」が、何か事を為し終えたときに自然に頭に浮んできます。古より同じ主旨の諺「勝って兜の緒をしめよ」が人口に膾炙された警句として知られていますが、そこに共通する意義は「成功の逆襲」の戒めです。

 例えば、"初仕事"に成功した泥棒は、その後の"仕事"にこのうまく行ったやり方、つまりパターン化された進入方法を繰り返すので、特定され逮捕されてしまうことになります。別の例で言えば、ギャンブルにのめり込むきっかけとなる「ビギナーズラック」〔beginer's luck〕に共通な人間心理の弱点です。

 最も得意な分野は、過去の成功体験ゆえに油断し易く、不得意な分野の進出に注いだ充分な配慮と事前の準備が軽んじられた結果、心外な大失敗に至るのだと思います。騎馬戦術でずっと成功してきた"職業軍人"集団の武田軍勢が、マニュアル的に鉄砲訓練を受けた"素人"足軽集団の織田戦陣に負けた理由も、あるいはバルチック艦隊を撃破し旅順攻略に成功して教典にし学んだ日本軍が、ノモンハンからインパールまで負け続け理由も、全て過去の「成功の逆襲」に在ると見ることができます。

 成功体験は心地よい記憶であるし、他人に自慢できる輝かしい成果ですので、何度でも再現したい衝動に駆られる結果、思考の中でごく自然に定型パターン化し専用公式となります。これを回避するには、強い意識をもって、過去の成功体験を忘れ〔ときに捨てて〕、目先を大きく変え、別方向に位相を移し、未踏の地に敢えて歩みだす勇気が絶対に必要です。

 ときおり、殆ど書籍を読まない、他人の話をあまり聴かない、チャレンジしたがらない人に出会うと、不思議な気がします。知らないうちにパターン化した自己思考を修正できるのは、実はこれらの積極的な努力でしか為し得ない筈なのに、多くの機会を逃し、敢えて無視するからです。このような人は、自己経験の判断で行き詰まると、占い、手相、宗教など、およそ無関係で無責任なご宣託に頼り、ついに予見可能な末路を辿るようになります。

 プロの野球選手、サッカー選手は、どのような体力と意思の持ち主でも、輝かしいピーク期間は体力の衰えから行き詰まりを感じる三十代後半で終わることが多く、最近のスポーツニュースで報道されています。企業人であれば、まさに人生最盛期に至るときに、プロ選手は、残された長き後半生をどのように過ごすか、輝かしさの反転の重い課題を背負うことになります。予めこれあることを予見して、充分に準備した者とそうでない者との差は、その瞬間に歴然として重く圧し掛かってくることになります。このような場合も、「成功の逆襲」の戒めが必要不可欠な警句であります。いずれにしても、別な自己が現在ある自分を遠くで客観的に見ている(3D+T)構成の監視体勢が、健全な企業のみならず、自己組織において必須の思考方法なのだと思います。

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