2005年10月18日 (火)

政治と外交

 今回実施された小泉郵政解散の選挙結果は、日常的に政治と無縁な人々にとって、かなり示唆に富む見方・考え方を提供してくれた点で注目に値する出来事であり、少し誇張して言えば"歴史的"な出来事でありました。

 小泉さんは、歴代自民党の総裁には稀有な特質を"いろいろ"に備えているとの理解は、誕生から4年を経てなお高い人気を維持し続けている理由として、衆目の一致する見方のようです。その一つに、One Phrase Politicsの根拠になった、政策や方針に対する必要最小限も満たさない「寡黙さ」があります。今回の政局において、多くのベテラン議員、新聞記者、政治評論家の予想が、ドラスティックなほど見事に裏切られた理由でありました。

 人間観測していると、しばしば表層と心裡の乖離が判明するシーンを目にすることがあります。橋本竜太郎氏は議員になってからも熱心に道場に通って師範腕前の剣道に汗を流していました。生来の小心さを隠蔽し"威風"を支持者の前で演出したい意識が人一倍強くあった筈なのに、剣客に相応しくない正義感の欠落から、日歯連献金事件の不名誉を厭わず、明々白々な偽証をしています。なぜなら、会合意図が献金にあった筈なのに、忘れて記憶にないとは到底信じられないからです。また、防衛庁長官室のベランダから目的不明の決起を呼びかけ自刃した三島由紀夫氏は、ボディビルと剣道の練習に熱心に取り組み肉体改造に励んでいましたが、この意図が、幼少期の奇行で意識した"男色"を気取られないためのカモフラージュにあったことは、自伝的小説「仮面の告白」や死後開示された日記から読み取ることができます。

 ある創業2代目の経営者と面談した折に、盛んに難しい漢語を駆使しこれから進めようとしている経営方針を熱く語る場面に遭遇したことがありました。このような場合、孫子の兵法が特に好まれる出典のようですが、その真意は、古典の確立された評価を借りてする自説説得に力点があったようで、創業者には確として存在した自からの言葉で語る熱意が、2代目になると最早失われて、経営者の人となりの薄さを痛感することになりました。

 どのように仮装し、借用しようとも、鋭い観察と検証に曝されると明らかにされる真実がある一方で、逆に心の奥部に秘匿し、言葉少なに注意深く表現することで、他人に窺がい知られることなく、決意を実行できる場合があります。小泉劇場の芝居の真の筋書きを、多くの有権者と同様に、ベテラン政治家になるほど見事に読み違えた今回の解散選挙ほど、教訓的な事例は少ないのではないでしょうか。どの様に批判されようとも、事前に本心を開示しないことによって、政敵の放つ攻撃を有効に回避できたし、事前公表による自縛がないことが強みとなって、戦術がブレることも変更する必要もなく、計画とおり機能させることができました。言葉の少なさに反比例して多数の憶測と仮説が生み出されましたから、俳句のように、少ない言葉のもつ意味弾性の拡がりと、時間経過と共に膨張する想像域とに助けられて、曖昧なマニフェストも国民に快く受け入れられて、結果的に大勝利しました。

 どの様な外交秘密も3ヶ月もすればその95パーセントは結局は公開されると陳述したカナダの職業外交官がいました。最近、諜報職員をIT公募して話題になった英諜報機関が現れるほどに、情報自体の秘匿はますます困難になっているようです。最近あった外交ニュースに、10月18日に小泉首相が靖国神社を参拝する報道と、11月15日にブッシュ大統領が京都で小泉首相と会談予定とする2つの全く異なる報道がありました。一見何の脈絡のない両報道を大胆に読み解くとすれば、イラクの失敗で苦境に陥っているブッシュ政権が打開策を模索して来日する姿が透けて見えてきます。更に踏み込んで予測すると、イラク・イラン両国に対し歴史上の瑕疵履歴がなく、宗教対立軸を持たない、米国の忠実な同盟国日本に対し、ある種の解決期待を持つようになるのは、米外交の当然の帰結であると理解できます。

 暫くの間、この予測がどの程度的中するか、静観してみることにしましょう。さて、結果は如何でしょうか?

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