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2005年9月 1日 (木)

人格と仕事

 研修、試用の期間が終わって、新入社員が最初に配属される職場先の希望を尋ねられたときに掲げる理由として、職場上司の人柄のよさが圧倒的に多い。業務が不案内なので、不安な船出の行き着く先に、厳しい上司は避け、なるべく人格円満な人の下で働きたいという思う気持ちはよく判りますが、仕事の面から見ると、必ずしも上司の人格が成果に直結しないで、その逆になる場合が多々あることに早晩気付く筈です。

 日常生活の付き合い関係で、人格円満はまことに申し分ない条件ですが、その対極にある職場は、従業員の間に発生する利害得失の衝突と調整、妥協と協調の上に成り立っている非情な人工の擬似社会ですから、人格円満な上司の下では、必然的に業務は行き詰まり、ストップしてしまいます。例えば、部下の意見をあまねく聞いて全員が納得できる行動を採ろうとすれば、上司の頭の中は混乱とカオスの思考が繰り返されるばかりで、人格円満なるがゆえに非情な決断が実行できず、極端な場合、業務停滞の事態に陥ります。しばしば採用されるこのときの上司の反応は「暫く考えてから決めよう」で代表される、引き伸ばしです。部下はこのときどうするか、大抵の場合、臨時の上司になった積りで「業務を進めるのに、かくかくしかじかの課題がありますが、このようにすればうまく解決できますので、如何でしょうか」と、まず提案同意を求める関係に変化します。さらに発展すると、「・・・・このようにすればうまく解決できそうでしたので、実施しておきました」と、実施追認型に変わり、その帰結として、やがて上司に対して公然無視が始まり、下克上が実際の形となって、最終的に組織改変へ進むことになります。

 経営学等で引き合いに出される事例に、大統領と補佐官の関係があります。形式的に大統領署名の教書ですが、内容の大部分はその補佐官苦心の作文であることが多いとされています。極端な場合、真偽のほどは判りませんが、補佐官に簒奪しようとする強い意思が働き、面白いフィクションに仕立て上げられて、TVやドラマに取り上げられることになります。日本の政治家の掲げる政策もまた然りで、秘書や官僚の役割がかなりの部分を占めている事実は周知のとおりです。最近の事例として、例えば、某知事の「パート的業務」と副知事の権勢、法務大臣の国会答弁内容と官僚の補佐など、報道で明らかにされることが多くなりました。秘書から政治家になった事例の殆どは、永年のこのような政治家と秘書の関係に変化が生じるのが動機だと言わています。

 経営組織のフラット化を進めようと盛んに喧伝され、ヒエラルキー階層を減らせば、一次情報に接する機会も多くなり、意思決定が効率的で正確になるとの認識が広まったことがあります。その後、この方向は幾らか修正されて、ある程度のフィルタリングやスクリーニング、評価を適切に行なう中間層の意義が見直されました。

 部下は、上司の仕事振り、決断の仕方、人格などを傍らでじっくりと常時観察しているものです。上司と異なる対案を密かにシミュレートし比較している部下もいます。何時までも部下でいる筈もなく、やがて階段を登り、あるいは独立して、自己実現を図るのが正常な個人の成長の姿でありますので、言い換えれば、部下が育つ正常な過程の準備であります。

 部下の成長を願っている上司かどうかは、次となる者の存在の有無と、その間の距離のとり方で判ります。意識的に距離を大きく取ろうとするのは、現地位の安泰と簒奪の予防を優先しているからであり、人格に何らかの欠陥があると考えるべきでしょう。例えが適当かどうか判りませんが、次期首相として簒奪される恐れのある有能な大臣を小泉さんは敢えて任命していません。長期政権にとって適切と考える距離を置くように人選しています。ワンマンや独裁者がよく採用する手法ですが、次は必然的に混乱と喧騒の状況になり、群雄割拠へ引き継がれることになります。現政局の混乱の主要因なのですから、無責任の謗りは免れません。

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コメント

私は就業から現在まで上司という存在はありません。
学生時代の知識をベースに見よう見まね、我流で成長するしかない。そして、
成長のペースは鈍り、職業人としては知恵遅れに。
上司は自己を認め、成長を促進してくれる宝物なのかもしれません。

投稿: 若月 | 2005年9月 5日 (月) 09時47分

上司はメンターとしての役割が課せられいる筈なのですが、必ずしも意識されず、あるいは欠如している場合など、実際には様々な態様が存在しますので、学生から起業された場合を含めて、書籍等を慫慂し学習するとか、外部との接触を通し経験的に会得するとか、能動的に補い習得すべきものではないかと思います。学生起業したリクルート社創設の江副さんの事跡が、まさに該当しているようです。

投稿: ウータン | 2005年9月18日 (日) 22時30分

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